穂波センセイの「考えてみませんか? 働くこと・楽しむこと」

  • ブログの紹介
    4人の子育てに追われる一方、ハーバード大公衆衛生大学院リサーチフェローとして、女性のトータルヘルスケア、女性医師の復職支援などで活躍するパワフルウーマン。「決してスマートではない生活」(笑)の中から、皆さんを元気づけるメッセージや、一緒に考えていけるテーマをお届けしていきます。
  • 著者プロフィール
    吉田穂波(よしだ ほなみ) 1998年三重大卒。聖路加国際病院の産婦人科レジデント後、2004年に名大で博士号取得。2004年よりドイツ、イギリスで臨床に携わる。帰国後、「ウィミンズ・ウェルネス 銀座クリニック」でトータルヘルスケアを実践。08年にハーバード大公衆衛生大学院修士課程に入学。10年5月に卒業後、リサーチフェローとして研究を続けている。これまでに4女を出産、子育てにも追われる日々。

メッセージ

子どもと新学期 4/4 ―女性の元気で周りを明るく!

世間では「女性活用」の花盛り。先日、枝野経産相大臣と女性経営者との懇親会に出席した際に、大臣は10分のスピーチの中で10回以上も「女性活用」を繰り返していました。

○「女性活用」を打ち出す経産省
5月31日に経済産業省から発表された「『成熟』と『多様性』を力に~価格競争から価値創造経済へ」でも「女性にも働いてもらわないと日本経済、年金、この国は経済破綻する!!」と指摘。かなりインパクトのある数字も出ました。

・日本経済は、近年、新興国との価格競争激化→企業の利益圧迫→雇用者報酬の低下→将来不安から勤労世代の貯蓄率上昇→消費低迷→デフレ継続・・・という縮小の連鎖に陥っており、「男性正社員中心の新卒採用・終身雇用」の就労モデルが限界に来ている
・ここから脱出するためには、女性の就労を300万人規模で拡大し、ダイバーシティ経営の推進により、価値創造経済に転換することが必要―など。

経産省がここまで明確に「経済再生に女性の活躍推進が不可欠」というメッセージを打ち出すのは、初めてですし画期的なことだと思います。また「政府各機関がこれだけ力を入れて、政策的にも女性活躍のためのメニューが出そろっているのに、なぜ変わらないのか?」という質問には、「『専業主婦VS働く女性』という女性同士の問題にしないことが重要」と答えていました。

これを聞いて私は「なるほどなぁ」と思いました。私は、仕事をどの程度しているかに関わらず、母親の仕事内容というのはあまり変わらないと思います。対立構造にして女同士を闘わせて喜んでいるのは誰かほかの人かもしれません。ぜひ、同じ母親として、子ども世代をすこやかに育むという共通のビジョンで仲間になれたらと思っています。

○子どもを産み育てる楽しさを
自分の娘の代には、好きな仕事につき、好きな人と結婚し、子どもを持ち、子どもを育てる自分を誇らしく思い、仕事を続けながら子育てするのが当たり前、という社会になっていて欲しいです。娘たちがパートナーを見つけられず、仕事に夢中になるあまり結婚出来ないのは、もどかしい。

かと言って、母親のアドバイスなんていつものお説教、お節介と思って聞いてくれないだろうなぁと思い、口で言うよりも、まずは自分が仕事をしつつ子どももいて幸せ。そんな人生を見せることが効果的なのでは、という思いで、子育てしながら仕事を続けています。

「男性の3人に一人、女性の5人に一人は一生涯独身」という統計結果を見ると、「子どもを産み育てる楽しさ、子どもを育てることで、自分も成長する楽しさを味わってほしいなぁ」と強く願っています。

子どもと新学期 3/4 ―仕事・家庭・社会貢献の相乗効果を

「女性医師たちは、どうして出産すると働き続けられないの?」
ある診療部長の男性医師から聞かれたことがあります。とても見込みがある研修医さんが面接に来て、後期研修医として採用したにもかかわらず、結婚や出産を理由に断られてしまったのだそうです。

私は「働きたくない」「楽をしたい」と思っているのではなく、「ほかの男性医師や同僚に迷惑をかけたくない」「自分が休む分の負担をかけさせたくない」「自分のポストは確実に働ける医師の方が相応しい」などと思う人が多いのではないでしょうか、と答えました。女性の方が真面目で義理堅く、責任感が強い人が多いのではないでしょうか

○母親はマルチタレント
そして、一度フルタイムの職を外れてしまうと、「こんな自分は医師ではない」「バリバリのキャリアを積む医師に比べて、自分は何とお粗末なことか」と考え、胸を張って自分が医師だと話せなくなってしまいます。そして、年月が経っていくと、ますます医療の世界に戻れなくなってしまいます

私も、保育園のママ友として顔見知りだったにもかかわらず、医師仲間ということを長い間知らずに過ごしていた友人が何人もいます。お互いに「医師はバリバリ忙しく飛び回るべき」という思い込みに縛られて、パートタイム勤務では恥ずかしくて「医師です」と名乗りにくいのだと思います。

母親業は、保育園選びから毎日の食事まで広範囲にわたる物事を取捨選択し、決定していかなければいけません。そのためのエネルギー、危機管理、とっさの対応、銀行や役所、公的機関とのロジスティクス(事務処理)、段取り、人間関係の調整、家族や親類との「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」、その全てにわたってマルチタレントな才能が求められます。そう考えると、専業主婦の方はもっと大変です。私のように家事の手抜きをする言い訳が出来ないのですから…

○相乗効果で効率良く
だから、家庭と仕事の「両立」を目指すのではなく、その時々で比率を変えながら、自分の中の異なる立場、異なる役割がそれぞれ相乗効果を出しあって効率を良くすることが大切だと思うのです。例えば、私の場合、平日の昼間に開催される学級委員の集まりにはあまり顔を出せませんが、その分職場のすきま時間に配布物などの書類作成。封筒に詰める作業を担当するここともあります。そのやり取りの中でママ友が増えるとさらに弾みがつき、小学校でのお付き合いがもっと楽しくなります。

仕事と家庭、社会貢献の相乗効果が生み出されると、同じ時間でも二種類、三種類のことが出来るのではないでしょうか。受け身にすぎなかった小学校の行事も、自分が準備に関わっていることで積極的になれ、顔見知りが増えたおかげで楽しくなり、今まで知らなかった世界が広がりました。「母親として、いろんな立場に身をおけるのはとてもラッキーだなぁ」と思っております。

子どもと新学期 2/4 ―地元でもボランティアできる

これまでは、患者さんや診察室での人助けはしているけれど、地元に知り合いがいない…主婦のみなさんと友達になりたい…と思っていました。また、いつも仕事があることを理由に、学校の仕事ではFree rider(ただのり、おいしいとこ取り)を決め込んでいたので、「今度は私がお世話役をしないと」と決意。「被災地ボランティアができたのだから、地元でもボランティアができるはず」と考えたのです。

○戸惑うこと、見習うことばかり
けれど実際に、学級代表を始まってみると戸惑うことばかり。平日昼間の学校行事や委員会に出席するため、あっという間に休みが消えていきます。時には、聡明で美しく優しい主婦の皆さんに大目に見ていただくこともありますし、分からないことは何でも相談しながら何とかやっています。主婦の方々のデキルこと、フットワークの軽いこと、パワフルなことなど見習うことばかりです。

長女の小学校は専業主婦の方々が5割で、子どもさんのお稽古事率や子育てのレベルが高い人ばかりで勉強になります。とは言え、私は子ども達を何もお稽古事に通わせておらず、悩むところですが…。

さて、専業主婦の方々に大きな尊敬の念を抱きつつ、皆さんがこんなに良く頑張っていらっしゃるのに、「私は仕事してないから」と謙遜されていたり、「子どものために仕事を辞めたのに、子どもからは『~~ちゃんのお母さんはお仕事していてキレイ。ママは家で何もしてないじゃん」と言われる』と自分を卑下されたり。そんな姿を見るにつけ、私は「もったいない!」と思ってしまいます。

○子育てを大歓迎する雰囲気を
まずは「母親」という、感情的にも肉体的にも精神的にも負担の大きい仕事をしている存在を「本当に良く頑張っている!」と、ほめる習慣を自分の住んでいる地域で作りたい-

そう思って、私は地道な活動ながら、地下鉄などの移動中でも、見知らぬ親御さんが子どもを連れていると、
「本当に偉いですね、良く頑張っていますね。」
「可愛いですね!」
と声をかけるようにしています。

社会が子育てを大歓迎し、称賛する雰囲気が少しでも母親の元気と家族の愛情、そして健康につながればと願っています。

子どもたちと新学期 1/4 ―小学校の学級代表に

春、新しい季節、新学期が始まりました。
小学生から保育園児まで4人の子どもを育てながら走り回る生活は、第一回でご紹介しましたが、今年度初めて小学校の学級代表をお引き受けしました

○ママ友とリフレッシュ
「昭和の長屋のように地域ぐるみで子育てできる環境がいいなぁ」
そんなふうに私は常々考えています。だから、保育園や小学校でつながりの出来たご家族には、気軽に我が家に立ち寄ってもらい、一緒に夕食を食べる機会を持っていました。夫の帰りは早くて夜8時。平日の夕方や日曜日など、私が1人で4人の子どもと過ごしていると、どうしても「親が子どもの面倒を見る」という構図になりがちです。

けれど、ママ友とおしゃべりしながら子ども達と過ごす時間は、母親の私自身にとって育児だけでなく良いリフレッシュの場になりました。また何よりも、子ども達が楽しくご飯を食べられ、来てくださったお母さんから「うちの子、いつもよりたくさん食べるわ」と喜んで帰っていただくのが楽しみです。

自分の大学や職場の友人も大切ですが、同じ年頃の子どもを持ち、いつも挨拶を交わす地域の友人は私にとってかけがえのない「支え合い」の仲間です。中には、我が家と同じく4人のお子さんをお持ちで、なんと現在5人目を妊娠中という方や、異業種のパパ・ママ友もいます。違うバックグラウンドを持った人との出会いが本当に面白いです。

○Human Networkを大事に
とはいえ、「働く母親」だけで集まり、「専業主婦」の皆さんとの接点がないという状態は考えものだと思っていました。働いている、いないにかかわらず、母親同士の支え合いが育児を楽に、楽しくすることがあります。また震災の時には、あまり身近な母親同士で携帯電話番号やメールアドレスを交換していなかったことに気付き、これまで以上に地元のつながり「Human Network」を大事にしたいと痛感しました。その思いのあまり、長女の学級代表に立候補してしまったのです。

親しいママ友からはズバリ。
「被災地支援のボランティアが一段落したので、次は地域のボランティアにエネルギーを向けるのね!」
自分でも気付かなかった理由を言い当てられ、「さすが!鋭いなぁ」と思ってしまいました。「ボランティアで人間総合力を身につけたい」と、自分の研修のためにも、もっと積極的な地域や学校との交流をして行こうと心に誓っているところです。

大震災とお母さんと子育て支援(3/3)

○子育て支援は今が正念場
PCATの被災地支援を通じて、人材集め、資金集めの重要性と難しさも知りました。現在、震災から1年が経過し、最初に求められていたような訪問診療のニーズはなくなりましたが、子育て支援の重要性はこれから、特に母親の心をいたわり、評価する取り組みはここからが正念場です。

母親、妊婦さんや子どもたちの報道や対策は放射能汚染に関するもののみに限定され、放射能被曝に対する母親の心配という問題に矮小化されがちです。しかし、将来の納税者でもあり、復興後の街を担っていく子どもたちの問題は、国家的な視点から考えなければいけません。

災害直後に妊産婦及び子どもたちが顧みられなかったことがどのような長期的な影響を及ぼすのか。悪い影響が出ている、あるいは今後出る可能性があるのであれば、どのようにして食い止められるのか。私のように少子化研究をしてきた者にとっては、女性や妊産婦、若い子どもに対する国民のあり方を問うような、解決方法を見いだせるような研究をしたいと思わされました。

○皆が手を繋いでゴールする時代に
この大震災で、日本が一番大きく変わった点は何でしょう?

いろいろあるかと思いますが、朝日新聞の世論調査では「日本社会のきずなを実感した」と回答した人が85%、「仕事を通じて社会のためになることをしたい」「人の役に立つことをしたい」と答えた人が73%との結果が出ました。また、団体を通じて寄付をした人が56%、街頭募金に寄付をした人が42%、被災地の産品を購入した人が29%、となり、「特に何もしなかった(12%)」を大きく上回りました。

日本を元気にするために、社会を良くするために、できる人が出来ることをして支え合う、誰かが飛びぬけて勝ち組になるのではなく、皆が手を繋いでゴールインする、次はこういう時代が来るのではないでしょうか

私にとって、被災地のお母さんたちが直面している問題は、全国の子育て世代が抱えている問題が露呈したものとして受け止めています。被災地の子育てを考えることは、平時の全国の子育て環境を考えることにつながります。次世代への思いを込めて、引き続き、息長く被災地のことを思い、祈り、尊重し、寄り添う姿勢を続けていきたいと思っています。

謝辞(敬称略):
太田寛、大塚恵子、遠藤ゆかり、春名めぐみ、早川幸子、池田裕美枝、新井隆成、藤岡洋介、綱分信二、渡辺亮、橋口佐紀子、日本プライマリ・ケア連合学会被災地支援チーム(PCAT)、日本助産師会、東京都助産師会、東京里帰りプロジェクト、AmeriCares、UNICEF