困っている人ほど、助けを求められない-。
 実は、「無理しない」「困ったら頼む」というのは、意外に曲者。

 頑張っている人ほど無理をしているのに自分ではわからない、本当に困っている時ほど人に頼めないことがあります。
 私の本職である産婦人科診療や、ボランティアの被災地支援でも、そのような状況をよく見かけます。

 ただ、子育て中世代の皆さんにお伝えしたいのは、
 「自分を尊重し、無理してストレスや負担をため込んでしまわないで!」 ということです。

 今回は私の経験から、応援メッセージを送りたいと思います。



○出産後は待ったなしの毎日 


 たとえば、産後のお母さん
 無事赤ちゃんが生まれてホッとしたのもつかの間。妊娠中の生活が夢のように懐かしく思えるほど、
待ったなしの毎日が始まります。

 2時間おきの授乳、おむつ替え、着替えやそのほか細々としたお世話で、気付いたらとっぷり日が暮れていた…。

 4人の子どもを出産した私でも、乳児期はいつも苦労が絶えませんでした。
 ましてや、1人目の出産なら尚更、予測がつかない新生児の対応に追われる中で、
夫婦関係だった夫と、“父親・母親関係”を築かなくてはなりません。

 さらに、友人や親戚との人間関係も変わり、肉体的にも感情的にも大きな負担になると思います。 



○「医師にホンネは言えない」 

 では、そのようなお母さんたちが困っているということを医療機関で話せるかというと、そうではありません。

 私自身が1人目の出産をしたドイツのフランクフルトで、初めて母親同士の本音を話す関係ができた時、
それまで診察室で接していた言葉とはまるで異なっているので驚きました。
 私自身は親しみやすい雰囲気を出そうとしていたのですが、「やはり医師にホンネは言えない」ことがよくわかりました。

 そこで、帰国後に勤務していた産婦人科クリニックでは、
 「出産後退院してから産後1カ月健診まで、ほったらかし」という従来の新生児健診を変更。
 産後2週間でもう一度健診
を行い、退院後の母子の様子を見せてもらう機会を設けました。

 「何かあったら1カ月後検診まで待たずに来て下さいね」と言っても、
退院後に格闘しているお母さんがわざわざ病院に来院するのは難しいもの。

 気になっていることはあるけれど、病院に電話しないまま、受診しないまま今日も日が暮れてしまった…。
 そんな経験した人は多いと思います。 



○小さな変化が大きな変化に 

 それが退院1週間後に受診するスタイルをデフォルト(初期設定のスタイル、とでもいうのでしょうか)にすると、
 来院した新米ママさんたちから、こちらが驚くほどたくさんの質問が出されるようになりました。

 また、産後うつを診断する世界標準とされる「エジンバラ産後うつ病自己調査表」をこの時期に実施したところ、
 産後の抑うつ症状を早期発見したり、助産師さんによる訪問が実現できたり、子育ての負担軽減を図るお手伝いができたりと、育児のスタートを切る時期のサポートとしては非常に有効でした。