穂波センセイの「考えてみませんか? 働くこと・楽しむこと」

  • ブログの紹介
    4人の子育てに追われる一方、ハーバード大公衆衛生大学院リサーチフェローとして、女性のトータルヘルスケア、女性医師の復職支援などで活躍するパワフルウーマン。「決してスマートではない生活」(笑)の中から、皆さんを元気づけるメッセージや、一緒に考えていけるテーマをお届けしていきます。
  • 著者プロフィール
    吉田穂波(よしだ ほなみ) 1998年三重大卒。聖路加国際病院の産婦人科レジデント後、2004年に名大で博士号取得。2004年よりドイツ、イギリスで臨床に携わる。帰国後、「ウィミンズ・ウェルネス 銀座クリニック」でトータルヘルスケアを実践。08年にハーバード大公衆衛生大学院修士課程に入学。10年5月に卒業後、リサーチフェローとして研究を続けている。これまでに4女を出産、子育てにも追われる日々。

子どもたちと新学期 1/4 ―小学校の学級代表に

春、新しい季節、新学期が始まりました。
小学生から保育園児まで4人の子どもを育てながら走り回る生活は、第一回でご紹介しましたが、今年度初めて小学校の学級代表をお引き受けしました

○ママ友とリフレッシュ
「昭和の長屋のように地域ぐるみで子育てできる環境がいいなぁ」
そんなふうに私は常々考えています。だから、保育園や小学校でつながりの出来たご家族には、気軽に我が家に立ち寄ってもらい、一緒に夕食を食べる機会を持っていました。夫の帰りは早くて夜8時。平日の夕方や日曜日など、私が1人で4人の子どもと過ごしていると、どうしても「親が子どもの面倒を見る」という構図になりがちです。

けれど、ママ友とおしゃべりしながら子ども達と過ごす時間は、母親の私自身にとって育児だけでなく良いリフレッシュの場になりました。また何よりも、子ども達が楽しくご飯を食べられ、来てくださったお母さんから「うちの子、いつもよりたくさん食べるわ」と喜んで帰っていただくのが楽しみです。

自分の大学や職場の友人も大切ですが、同じ年頃の子どもを持ち、いつも挨拶を交わす地域の友人は私にとってかけがえのない「支え合い」の仲間です。中には、我が家と同じく4人のお子さんをお持ちで、なんと現在5人目を妊娠中という方や、異業種のパパ・ママ友もいます。違うバックグラウンドを持った人との出会いが本当に面白いです。

○Human Networkを大事に
とはいえ、「働く母親」だけで集まり、「専業主婦」の皆さんとの接点がないという状態は考えものだと思っていました。働いている、いないにかかわらず、母親同士の支え合いが育児を楽に、楽しくすることがあります。また震災の時には、あまり身近な母親同士で携帯電話番号やメールアドレスを交換していなかったことに気付き、これまで以上に地元のつながり「Human Network」を大事にしたいと痛感しました。その思いのあまり、長女の学級代表に立候補してしまったのです。

親しいママ友からはズバリ。
「被災地支援のボランティアが一段落したので、次は地域のボランティアにエネルギーを向けるのね!」
自分でも気付かなかった理由を言い当てられ、「さすが!鋭いなぁ」と思ってしまいました。「ボランティアで人間総合力を身につけたい」と、自分の研修のためにも、もっと積極的な地域や学校との交流をして行こうと心に誓っているところです。

大震災とお母さんと子育て支援(3/3)

○子育て支援は今が正念場
PCATの被災地支援を通じて、人材集め、資金集めの重要性と難しさも知りました。現在、震災から1年が経過し、最初に求められていたような訪問診療のニーズはなくなりましたが、子育て支援の重要性はこれから、特に母親の心をいたわり、評価する取り組みはここからが正念場です。

母親、妊婦さんや子どもたちの報道や対策は放射能汚染に関するもののみに限定され、放射能被曝に対する母親の心配という問題に矮小化されがちです。しかし、将来の納税者でもあり、復興後の街を担っていく子どもたちの問題は、国家的な視点から考えなければいけません。

災害直後に妊産婦及び子どもたちが顧みられなかったことがどのような長期的な影響を及ぼすのか。悪い影響が出ている、あるいは今後出る可能性があるのであれば、どのようにして食い止められるのか。私のように少子化研究をしてきた者にとっては、女性や妊産婦、若い子どもに対する国民のあり方を問うような、解決方法を見いだせるような研究をしたいと思わされました。

○皆が手を繋いでゴールする時代に
この大震災で、日本が一番大きく変わった点は何でしょう?

いろいろあるかと思いますが、朝日新聞の世論調査では「日本社会のきずなを実感した」と回答した人が85%、「仕事を通じて社会のためになることをしたい」「人の役に立つことをしたい」と答えた人が73%との結果が出ました。また、団体を通じて寄付をした人が56%、街頭募金に寄付をした人が42%、被災地の産品を購入した人が29%、となり、「特に何もしなかった(12%)」を大きく上回りました。

日本を元気にするために、社会を良くするために、できる人が出来ることをして支え合う、誰かが飛びぬけて勝ち組になるのではなく、皆が手を繋いでゴールインする、次はこういう時代が来るのではないでしょうか

私にとって、被災地のお母さんたちが直面している問題は、全国の子育て世代が抱えている問題が露呈したものとして受け止めています。被災地の子育てを考えることは、平時の全国の子育て環境を考えることにつながります。次世代への思いを込めて、引き続き、息長く被災地のことを思い、祈り、尊重し、寄り添う姿勢を続けていきたいと思っています。

謝辞(敬称略):
太田寛、大塚恵子、遠藤ゆかり、春名めぐみ、早川幸子、池田裕美枝、新井隆成、藤岡洋介、綱分信二、渡辺亮、橋口佐紀子、日本プライマリ・ケア連合学会被災地支援チーム(PCAT)、日本助産師会、東京都助産師会、東京里帰りプロジェクト、AmeriCares、UNICEF

大震災とお母さんと子育て支援(2/3)

○特別扱いされなかった妊産婦
災害後、宮城県女川に支援に入ったイスラエル軍災害援助隊は内科、外科、小児科、産婦人科、耳鼻科などで構成される"移動診療所"でした。私たちの先遣部隊のメンバーが一緒に活動させていただいた時に驚いたことは、彼らが国外の災害援助経験にもとづき、豊富な機材を持参していたことです。

特に産科では、ポータブル超音波診断装置や内診台のみならず分娩台、新生児蘇生設備まで空輸してきており、被災地でもお産があることを当然としていました。災害時には、病気があろうとなかろうと、怪我をしていようといまいと、妊婦さん及び乳児を特別に扱うことが必要です。それは、災害によるストレスで、妊産婦及び乳児が、ほかの人よりも様々な健康被害を出しやすいということがわかっているからです。

例えば、アメリカで起きたハリケーン・カタリーナでは、被災人口の2%に満たない妊婦さんを優先して搬送し、安全な場所にある妊婦さん専用トレーラーハウスに移していました。一方で、今回の東日本大震災では、妊婦さんが特別扱いされることはあまりありませんでした

○手厚いケアを実現したALSO
しかし、次につながるような好事例もありました。プライマリ・ケア医でALSO(Advanced Life Support in Obstetrics)という研修を受け、産科の取り扱い方法についても熟知していた家庭医のメンバーが、PCATメンバーとして災害直後の3月17日から宮城県女川町から石巻地区を回り、妊産婦に手厚いケアと適切な処置をしたのです。

ALSOとは、医師やその他の医療プロバイダーが、周産期救急に効果的に対処できる知識や能力を発展・維持するための教育コースです。プライマリ・ケア医だけでなく産婦人科医師の研修医を対象とした訓練でもあります。このコースは1993年にAmerican Academy of Family Physicians(AAFP-米国家庭医学会)によって認可され、現在全米ではほとんどの分娩施設において、分娩に関わる医療プロバイダーがALSO の受講を義務づけられています。

またALSOコースは世界的に普及活動が行われており、2009年現在までに、50ヵ国以上でプロバイダーコースが開催され、10万人以上がALSOコースを完了しました。日本では2008年に金沢大学の周生期医療専門医養成支援プログラムのグループが米国家庭医療学会から日本でのALSOセミナー運営権を取得し、2008年11月に金沢大学医学部にて初めてプロバイダーコース、インストラクターコースを開催しました。

2009年4 月1日よりNPO法人周生期医療支援機構(本部:石川県金沢市)がALSO-Japan事業として日本におけるALSO普及活動および運営をおこなっています。(2009年4月1日金沢大学医学系研究科周生期医療専門医養成学講座HPよりhttp://www.oppic.net/item.php?pn=also_japan.php)

今後は、国内の多くの災害医療チームの研修にも、妊産婦および乳児の医療に対応できるトレーニングが組み込まれるようになっていくことでしょう。ただ、産婦人科医や現状の限定された産科プロバイダーだけではおそらく救護所までとなるとマンパワーが足りません

産婦人科専門医の手の届かないところで、妊産婦や乳児のプライマリ・ケアができる救急医療プロバイダー(救命士や自衛隊、DMATのメンバーなど)が多く必要であるという観点から考えると、もう少し先には一般の人たちがBLSO(Basic Life Support in Obstetrics)を学びプロバイダーとなれるように、一般人対象のBLSOへまでつなげていけば、さらに社会全体で妊産婦や乳児を守る、災害弱者を守るという意識付けにつながるのではないかと考えています。